会えてはいないけれど、ちゃんと会えていたんだ

ぼくの祖父母で唯一健在の、父方の祖母。

ナンプレやぬりえが趣味の、今年94歳。
とても元気な祖母だ。

昔はちょっときつ目の性格だったけれど、
いつの間にか、優しさのかたまりを人の形にしたような人になった。

二ヶ月前、両親と妹と一緒に、施設で暮らしている祖母に会いに行った。
細かく言うと、施設には行ったけれど、実際に会えてはいない。

というのも、タブレットを使ったリモート面会だったからだ。

リモート面会は、一階入り口付近の部屋と、
利用者の部屋をテレビ電話で10分間つないでもらえるシステムだ。
何か物をことづけてもらうこともできる。
予約が必要だし、つきっきりで対応してくださる職員さんの手間もかかる。
以前のように、近くを通ったからといってふらっと気軽に立ち寄れるわけではない。

思い返すと、祖母のところに行くのは一年以上ぶりになっていた。

テレビ電話がつながると、元気そうな祖母の姿に安心した。

ようきてな

さっそく祖母の〝いつもの言葉〟が飛び出した。

これは、近江八幡の方言だろうか。
同じ滋賀県でも、地域によって方言の違いがあったりする。
それってもしかすると、海のように広いびわ湖のせいかもしれない。


いつもかけてくれる「ようきてな」を、ぼくは使ったことがないし他で聞いたこともない。
祖母の雰囲気から察するとどうやら、
「ようきてな」には「今日はよくきてくれたね」という意味があるらしい。

面会で「ようきてな」なんて言われると、真逆の意味にとる方が自然だ。
「これからもたくさんきてね」と言われている気分になりそうなものだ(そう言われても嬉しいけど)。

この「ようきてな」を聞くたびに、おもしろい言葉だなと思う。


面会の10分間はあっという間だったけれど、
祖母と久々に心を通わせた感覚がちゃんとあって嬉しかった。

その帰り道、ぼくはテレビ電話で自宅にいながら祖母と話せたらいいのになと思った。
それならもっとたくさんつながれるのになって。
もちろん、この願いは諦めのうえでの発想だ。
祖母がスマホなんかを所持するのはむずかしいのだから。

でも、やっぱりリモート面会の10分間がとても楽しく嬉しかったなと振り返る。

いや、でも待てよ。

祖母があんなに喜んでくれたのは、
ぼくたちが祖母に会いに来たからだ。

そしてぼくたちが嬉しかったのも、
きっと祖母に会いに行けたからだ。

なぜなら、祖母の「ようきてな」は、会いに行かないと聞けない言葉だから。


ぼくたちは祖母に会ったんだ。


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